緊急事態発生!生き残れるのか3T.(第3回)


事故が起きてから35時間が経過しようとしている。1号はかなりあせっていた。連合国代表はつい1時間程前に公式見解として、あの事故を発掘のためのダイナマイト設置ミスによる大規模な誘爆、生存者はゼロと発表したからだ。関係者には護衛の名目で監視役がつけられ、発言もままならない状況下、PCも携帯電話も取り上げられ、更にここ、ダブリンのホテルから一歩もでることさえも許されていない。

とそとそ隊の活動は表だって行われることは極めて少なく、今回も例にもれず極秘扱いになっているため、このままでは闇に葬られてしまいかねない。それでもただひとつ好転的な内容といえば、連合国代表が日系人であること、その彼、安戸茂(ヤスドシゲル)が古くからの知り合いであること、そして現時点で彼が同じホテルの隣の部屋に宿泊していることだけだった。
急いで隣の部屋に連絡をいれるが、応答はない。内線さえも切られているのか?しかし、待っていられる程の時間の余裕はないのだ。なにせメンバーには簡単な警備だということで、装備や食料など、充分なものを持たせなかったのだから。

あまりにも情報が少ない。
なにが起こったのかは見当もつかないが、ダイナマイトの誘発事故でないことだけは解る。貴重な遺跡にそんな乱暴なものを使用するはずはないからだ。


1号



「いまなら、まだ間に合う!私は私ができることをやるしかない!」


1号は、部屋の外にいる監視が入って来られないよう入口をベッドでふさぎつつどうやって隣の部屋のシゲルと連絡をとるか、死に物狂いで考える。ただ、時を刻む時計の音だけが突き刺すがごとく響いていた。

そのころ安戸茂は連合国代表の任を解かれホテルの部屋に監禁されていた。貴重な人類の遺産とされる遺跡を紛失した責任と世界中の名立たる科学者の命を失わせた責任を問われての失脚だったが、これは明らかに陰謀以外のなにものでもなかった。

調査を始めて4ヶ月。2世紀をまたいでの大調査とやらに世間は踊らされ過ぎている。
裏で暗躍する輩が私を貶め、世界をまた暗黒の時代へ引き戻そうとしているというのに。 ああ、自分の地位がほしいのならくれてやろう。しかし、それにしてもやりのこしたことが多過ぎる。


安戸



「連中はあれがなにかわかっていたはずだ。危険だから手を出すなとあれほど言ったのに。」


安戸はコブシを握り締め、机の端に置いてある資料を険しい顔で睨みつけた。それは280ページにも及ぶ遺跡の資料。しかし、危険があるなどとは何一つ書かれてはいない。
考えてみればこのプロジェクトには最初から軍部からの強いテコ入れがあった。この資料も軍部が作った報道用の資料なのだ。真実が隠蔽されていることは間違いないが、事故が起こってすでに遺跡が失われた今、それを確かめる術もない。


安戸



「術もないか・・・・。まてよ、もしかして」


急いでリビングに放ってあったカバンの中に隠し持っていたノートPCに電源を入れる。
まさかの時のために隠し持っていてよかった。今回の調査隊のメンバーには安戸の息のかかった科学者も数人いたはずである。調査データは彼らの持つ端末を通しサーバに蓄積されていくのだが、それを閲覧することができれば閉ざされている真実とやらに近づくことができるかもしれないのだ。ただし、それは連合国本部の地下にある、最高のセキュリティで保護されたサーバのため、権限を剥奪された彼が、携帯電話経由のPCからアクセスできるような代物であるわけもなく、3つのパスワードとしばらく格闘したものの、やはりどうしても開けることはできない。
あきらめかけたその時、右上にあるメールのアイコンが点滅していることに気がついた安戸はカーソルを移動させ、メールソフトを立ち上げてみる。


PC



「メールが一通届いております。時間は地球時間2001年3月2日@347」


事故が起こる7時間前だ。なにか重要なことに違いない。安戸の手が震える。ちょうどそのとき、誰かがベランダの窓を小さくたたく音が。
ダブリンは朝。静かに雨が降り始めていた。